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【伊 豆 を 走 る】


IZU

その1 下田~熱川


期日:1991.5.2
距離:28キロ




ゴールデン・ウイーク のざわめきも収まらない中、これまで電車や車の窓から眺めるだけの伊豆・東海岸を、いつかは自分の脚で気の向くままのんびりと走ってみたいと温めていた計画をいよいよ実施しようと、久し振りの伊豆の山々を眺めながら伊豆急下田駅に到着。
5月2日11時 快晴。

この計画は1日目下田~熱川28キロ、2日目熱川~伊東27キロ、計55キロを走ろうという計画です。
黒船の来航により鎖国日本の暗い夜が明け、明治維新を経て近代日本への文字通り第一歩を踏み出した下田には、その 先人達の貴重な足跡が沢山残されており、走りの興味と共にこれらの史跡を訪ねることも下田をスタート地点にしようと考えた理由であった。


IZU トンネル を抜けると深い谷間に見え隠れする今日これから自分を苦しめるであろう国道がほそぼそと続いているのが見える。 伊豆は山ばかりである。車窓からその道を見ていると次第に不安と恐怖感に襲われている自分に気がついた。
 果たしてこの道を28キロ走り切れるだろうか、最初の予定は下田であちこち史跡巡りをして、夕方5時ごろ熱川着、今夜はどこかの民宿で熱い温泉と冷たいビールでも・・・と考えていたのが、恐ろしい山道を見続けて下田に降り立った時は、もう史跡どころではなく只一刻も早く出発して目的地に着かなければ・・と思うばかり。
大急ぎで食事を済ませ、駅の案内所で道路の情報を沢山仕入れて先ずはスタート。
12時35分。最初の目的地 河津 、距離15キロ。下田市内を抜けると歩道が無くなりバスやトラックがすれすれに追い越して行く。やがて5キロ、文字通りの白浜海岸、プリンスホテルの白壁と真っ白な砂が海水浴客がいない午後の陽光を浴びて南の島を思わせる風景に思わず脚を止めてしまう。いつの間にか海岸が低く見えるようになり、いよいよ山道が始まる。この辺りで〝今日は調子がいいぞ!“ と気がつく。ここまでは狭い道とすれ違う車に気を取られて自分の体調をチェックする余裕もなかったのが、綺麗な砂浜と目の前に浮かぶ初島や大島の絶景が自分を平静に戻してくれた。

IZU 道端の雑貨屋 さんのおばさんとしばし雑談、その店が下田と河津の丁度中間点、店の前にその標識が埋められていた。おばさん〝 ここから河津までは平らな処は無いよ” 恐ろしいことを他人事みたいに言う元気なおばさんに励まされて出発。

午後1時30分、 ひたすらの登り、体調がいいのかぐんぐん登れる。小さなトンネルが次々現れる。 きちんと整備されたもの、只山をくり抜いただけのもの、電灯が無いもの、側溝が無いもの、恐ろしいものばかりで此の道中一番緊張したのはトンネルであった。 トンネルを抜ける度に目の前に広がる素晴らしい景色が疲れを忘れさせてくれる。

先ほどまでの波打ち際が遥か下に見えて知らずの内に激しい登り下りを繰り返していた。あちこちで一服、初夏の伊豆の海は走るのを忘れさせてしまう程の綺麗さであった。 体調も十分、のんびり走ろうと思っていたその真ん中にドップリ浸かって幸せを独り占めしている。
漸く町並みが見えてきて 河津到着。午後2時07分。何処かで補給休みを・・と考えながら走っているうちにまた家並みが無くなってしまった。そう、国道はバイパスで 市内には入らない。休み損なって仕方なく又とぼとぼ走る羽目になってしまった。  河津を過ぎると平坦になる・・とおばさんが言っていたのに依然として山また山。 伊豆は山の国とは言え、いつかは登った分だけ下る筈なのにスタートしてやがて2時間、 少しも下った記憶が無い。

IZU それにしても 快晴、南国の様な白い砂と海の青、遠くに見える伊豆の島々、今日を選んだのか幸運であった。午後2時53分 稲取温泉着。 水分を補給して残り8キロ。体調は万全、のんびり行こう。見晴らしのいい峠で小憩。 九州から来たと言う自転車の学生としばし談笑、彼は下田から西海岸を往くと言う。

流石にこの峠を境に道は漸く下り始める。下りの何んと楽なことよ。あれほど低く見えた海岸が随分近くに見えるようになった。やがて、遠くに今日の目的地 熱川の街並みを見下ろす処まで下りてきた。振り返ると、今下って来た峠道が新緑の中に白い糸のように午後の光を受けて輝いていた。
 片瀬白田の駅前から一気に海岸まで下りて人影のない静かな海辺の道を今日一日のクーリングダウンの積りでゆっくり2キロ、午後 3時45分目的地 熱川温泉到着! 波打ち際の岩の上で先ずは一休み。何んとも激しい一日だった。あの幾重にも重なる山また山、もし途中で体調が悪くなったら路線バスもなく、電車もないあの山道をどうして越えてきただろうか。その時の自分の悲惨な姿を想像し今日の体調に感謝した。

心地よい 潮風に吹かれて漸く汗も引き、ふと気が付いたらまだ4時、予定を変更して今日は帰ろう! と決断。では、どこかの風呂で汗を流そう・・・と、開店前の店先に水を撒いていた寿司屋の女将さんにお風呂屋の場所を尋ねたら〝・・ずーっと高い処に公衆浴場があるよ・・・“ と指をさして教えてくれたその高いこと、僅か1時間前まであの山の中で悪戦苦闘していたのに、又また山登りなんてもう沢山! と思っていたら女将さんが〝よかったらウチの風呂に入って行きなさいよ!“ との親切なお言葉。異存など勿論無く、案内された風呂の立派な事、聞けば店に来るお客さんにも入って貰うと言う。西に傾いた陽を受けて今日一日のあれこれを思い出しながらの至福のひと時。ゆっくり身を癒しての風呂上がり、お礼にとカウンターで呑んだビールの美味いこと! 何より、今日一日の充実した時間、これほど幸せを感ずる瞬間は無いだろう。まして、カウンター越しとは言え、美人のママと二人きりなんだから・・・。 と言うわけで、後ろ髪をひかれる思いで代金を払おうとしたら、 ママ曰く〝この店では、その日の最初の客さんにはビールをサービスするのが昔からの習わしですから・・・“ すっかりご馳走になってしまった。 それにしても、走ると言う単調な運動がもたらしてくれた何とも素敵な伊豆のランであった。


IZU
横浜中央走友会 山本 卓


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