卓さんの越後路ランランラン


=記憶に残る足跡=
初秋の越後路を走る(1)

06.9.16〜18

            

                                               −卓-

・・・トンネルを抜けたら、そこはまたトンネルだった・・・、川端康成が今 名作 雪国 を書いたらこんな書き出しになるんだろうか。 新幹線での初めての新潟行きは2階車両の下段、線路に沿っての無粋な擁護壁とひたすらに続くトンネルのため、外の景色は全く見えず今回のルートの概況を確認しようとした目論見が早くも崩れ、不安を抱えたまま16日8:16分定刻新潟着。

今回の新潟〜東京間ランは、かねてからの “走っておきたいルート” のランキング上位にあったもので、20年ぐらい前までは実業団の駅伝が行われていたルートでもある。

また、今回のランは来年予定している知床〜函館700キロの下調べ、特に連続数日間続くロングランに体調がどのように反応するか?を確認するのが1番の目的でもあった。また、季節的にもまだ夏物で過ごせるため、背負う荷物を最小限にできる最後の機会でもあった。

 ということで、この企画を掲示板にアナウンスして同志を募ったが、流石にそんな物好きは独りも現れず、かねて覚悟はしていたものの寂しい一人旅となった。

天気予報では連休中傘マークばかりの前途多難を思わせたが、新潟の朝はうす曇、時には陽もさす18度前後の絶好のラン日和であった。 土曜日でもあり、人出の少ない駅前広場で心と体の準備をしてスタート前の証拠写真を撮ってもらう。 このときの青年が選定してくれた最適ルートは、予め予定していた地図上のルートを大きく変えて信濃川沿いに南下する河川敷ルートであり、結果的にこれは正解であった。

9月16日(土) 8時50分 駅前をスタート。 背負うリュックは約3キロ 重い。

県庁を目標に西へ約5キロ、土曜日のせいか市内はあまり人影もなく道を確認しようにも誰もいないのが不安。それにしても、駅前の中心街から県庁が5キロも離れているのは不便だろうな〜 なんて考えているうちに県庁に通じる目標の1号線に出た。この道は信濃川の左岸を南下し長岡 に通ずる道(らしい)。 岸の遊歩道から見る日本有数の大河 信濃川。 河口に近いのかこのあたりの川幅は300mぐらい。前夜の雨を集めた濁流が滔々と流れるさまは迫力満点。

 さあ、ここからはいよいよ今回の旅の始まり。 身支度を確認し、しっかり給水をして今日の目的地長岡市を目指しての再スタート。 天気はうす曇、気温18度ぐらい、微風。絶好のラン日和。 駅からの5キロが格好のアップとなって体調もバッチリ! 川岸の遊歩道は広々として快適。 一直線の路に人影はなく、まさに我独り天国に遊ぶが如く・・・という感じ信濃川の悠々と流れる姿は人の心を穏やかにしてくれ、自分の走る速さがつかめない。
長岡まで62キロ、急がなければ・・・と思いつつ、つい川の流れに引き込まれてのんびり走りになってしまう。 のんびり走りも5kで終わり信濃川大橋を渡って右岸の国道8号線にでる。

ここでびっくり。10k付近で 先ほど駅前でルート設定のアドバイスをしてくれた青年が、道を間違えていないか?と心配して車で後を追ってきてくれた。 いまどきこんな若者がいるとは日本人もまだまだ健全だな〜と感謝、感謝! ポカリスエットの差し入れを置いて去って行ったが、おかげで初日から心温まる思いのランとなった。

国道8号線を南下。平坦な直線が続く。交通量が多く静かなランは期待できないが、ようやく体が馴れて気持ちよく走ってるのに気づく。国道は市街地を通る旧道のバイパスとして計画的に作られているため、ほとんど市内を迂回するので遠くの町並みがどの町なのかを知るのが難しい。 ただ ひたすらの一本道がつづく。 標識がやがて白根市を教えてくれる。
20キロ付近。 このあたりから霧雨が降り出した。気温が高いので雨はむしろ水冷エンジンみたいで体には気持ちいい。 道端で特産の梨を売る店が沢山。 おばちゃんが大きな梨を剥いてくれた。 水分たっぷりなので水なのか固形物なのかわからないほど、旨かった〜。

道中雑詠: 秋雨に 頬打たれつつ独り行く 先さえ見えぬ一筋の道  (白根市付近)

単調な道なのでスピード感がつかめづ、黙々と歩を刻むだけ。 給水の頻度があがる。

市街地を通らないため、次 どこにコンビニや自販機があるかが判らず、安全のため、ペットボトルを常時2本は背負っているのでこれが重い。 信濃川本流や支流をいくつか渡りやがて三条市に入る。スタートから36キロ。 道路標識だけが三条市で道の両側は雑多の企業の建物で商店らしいものは一軒もない。 どこかで腹ごしらえと思って探してる間に又田舎道になってしまう。この繰り返しだった。 三条市通過時刻2:30pm、この時刻では長岡までの残り25キロは無理かな〜、 悔しいけど今日は見附市泊まりにしよう!。こう言うことは直ぐ決まる。 それでも見附市までまだ15キロある。雨は小降りになったが相変わらず単調な道をとぼとぼと走る。 それほど疲れてはいないのに体がのんびり走りに慣れてしまった。
やがて見附駅 の標識。 ここまで50.6キロ。 今日はここまで。 流石に疲れた。
道端の石に腰を下ろして見附市内のホテルに電話してようやく一軒に予約。 さて、ここからが大変だった。 国道からJRの駅までが5kもあり、しかも駅からホテルまでが2キロぐらい。
国道で止めて走りの緊張感が切れてしまった後の更なる7キロ。 古い町並みをあちこちで尋ねながらの7キロはきつかた〜! これならもう少し無理して長岡まで行ってしまえばよかった〜 と思ったが後の祭り。 何はともあれ、町外れのホテルに転がり込んだのは5:30pmだった。 かくして、越後路のラン初日を終えた。 国道距離50キロ+7キロ。 

長かった〜!
熱い風呂と冷たいビール、 一人天井を見つめながら今日の1日を追った。

道中雑詠: 人の世の しがらみさえも包みつつ 滔々と行く信濃の流れ (三条市付近) 

17日(日) 5時半起床 体調チェックのゆっくりjogとstretch. 筋肉痛、関節痛など全く異常なしだが疲れが抜けきれず足が重い。 6時半朝食、7時 出発。 国道の基点まで7キロ、この距離は想定外だったな〜 とぼやきながらも格好のwarming up。
7時50分 見覚えのある国道の基点からスタート。 天候 小雨、気温20度位、微風。
今日の走行予定: 見附市〜長岡市〜小千谷〜堀の内〜小出〜浦佐。 距離 56キロ。
国道は相変わらず単調な一本道だが、 国道に沿って歩行者専用の快適な側道を発見。
国道から一段低いため、車の気配が消されて静寂そのもの。周りは刈入れを待つ黄金の絨毯。 とにかく誰もいない道を淡々と走る。 いつの間にか長岡を過ぎていた。 
はるか遠くに見えていた山がようやく近づいてきて道筋にも変化が現れてきた。

 道中雑詠: 幾年の 想いをこめてひた走る 頬に冷たき 越後路の雨 (長岡付近)

越後平野が次第に姿を変えて低い山並みを間近に見るようになった。 信濃川を右に、左に見ながらのランは快適。  不思議にも、周りに人影の全くない見知らぬ土地を独りとぼとぼ走っているのに寂しさを全く感じない。むしろ、独りでやり遂げなければ・・・という強い緊張感に引っ張られて、その舞台に立っていることを誇っているかのようだった。

道中雑詠: 激流の 魚道に挑む鮭の群れ 力をもらい わが足を揉む。 (小千谷付近)

ようやく雨が上がり、空が明るくなった。 走り始めのころは足が重く今日一日の苦しみを覚悟していたが、気がつかぬ間に疲れも抜けて快調な足取りになっていた。

平野の一本道もいいけど、やはり山や川に囲まれてのランがスピード感があって楽しい。やがて小千谷の町。 中越地震以来すっかり耳になじんだ町。

道中雑詠: あの山の 彼方に悲しき里ありと 矢印の指す 山古志の道 (小千谷付近)

山古志村へ通じる道標には、まだ 災害復旧中 と書かれていて被害の大きさと、それを補う人間の力の弱さを痛感した。幾度となく現れる道標の先には再建を待つ被災者の悲痛な願いを運ぶ一本の道が黒々とした杉林の中に消えていた。
やがて堀の内町に入る。 このあたりから街並みが少し近くなった。 久しぶりにコンビニで水補給。 あまりおなかがすかないが無理しておにぎりを詰め込む。 目的地の浦佐市まで22キロぐらい。時刻2:30pm。 このまま行けば浦佐着が5時半ごろになる。
できるだけ早く今夜の宿を確保しなければ・・・さあ、どうしよう? 時計と距離との葛藤が続く。 そして出した結論は、小出までの13キロを走り、残り8キロを積み残し電車で浦佐に行く。 

積み残しは明朝小出まで戻り、そこからスタートする。 という縦断流。行動予定が決まったらようやく気持ちも落ち着いて又とぼとぼと走り始める。   

と、そのとき、歩道を歩いている山歩き風の3人組に出会った。 昨日から歩道で人に会ったのはほとんど初めて。 人恋しさもあって “・・・どちらから来られましたか?” との問いかけに始まって一気にあれこれの話につながった。 要約すると この3人組は 夫婦と友人。
長岡出身で現在は新潟に住んでいる。 新潟 “街道を歩く会” の会員。 今朝6時 長岡を出発して浦佐まで。 通る道は旧道の三国街道。3人ともランナーで毎年新潟マラソンに参加している。 年齢は55歳の旦那と奥さん、友人は67歳。 マラソンのほかスキー、山が大好き。 あっという間にこんな情報が集まってしまった。 話が合いそうで嬉しい。

“・・・僕も浦佐に行くんですよ・・・” “ ・・・それじゃあ 一緒に行きましょう!” ということでまさに “ 旅は道ずれ、世は情け ” の世界。 二日間も国道沿いの歩道ばかりを走って来たので、旧街道という響きがなんとも嬉しい。 早速お供させてもらうことにした。
その歩きがジョギング並みに早いのに驚いた。
“・・ところで、宿はどこ?” “・・まだ決めてないんです。この辺から電話しようと思って・・・”
“それじゃ 僕らと一緒に泊まろうよ!” ということで、すぐに予約してあったホテルに1名追加の電話をしてくれた。 こうなると、先ほどまでの心配事が一気に解決してまさにルンルン。
国道の車から開放されて、のんびりの街道歩きが始まった。 あれこれの話がなんと楽しいかことか。 旧街道の面影を残す小出の町は村祭りの最中だった。

道中雑詠:  黄金の 稔りあふれる山里に みこしを担ぐ 童らの声。  (小出付近)

あまりの楽しさに我を忘れていたが “・・あれっ? 俺は走っていた筈なのに・・・!” と我に返り、“・・少し走りますから・・・” といい置いて見通しのきくところまで走り出したら旦那が大きな山用のザックを背負ったまま一緒に走り出した。見るとスニーカーを履いていた。
一見太めなのに速い。キロ6分位で3キロぐらい走らされてびっくり。 “この辺で歩き組を待ったほうがいいよ・・・” と言うことにしてようやく一休み。 びっくりした〜! 
歩きとは言え、長岡からすでに25キロ以上歩いているのにこのスタミナ。 歩きとランの消耗度が違うのかな〜。 と まあ こんな歩きとランを繰り返して15キロぐらい夕暮れの田舎道を歩く。 峠道から見る信濃川の川面が美しい。 そこに胸まで浸かって鮎釣る人が点々。
やがて 越後三山がどっしりした山容を見せ始める。 越後駒ケ岳(2003m), 中の岳(2085m)八海山(1778m)。道の蛇行に合わせてその山容が刻々と変わる。

道中雑詠:  暮れなずむ 八海山の岩肌に 薄紅色の 一片の雲  (浦佐付近)

明日は晴れそうだ。 遠くに浦佐の新幹線の駅舎が見えてきた。 今日の一日は単調な独り旅のスタートから最後は賑やかなゴールとなって、人の出会いの妙を痛感した一日だった。
旧道が結局近道で5:30pm浦佐のホテルにゴール。 今日の距離56+7キロ
今日も熱い温泉と楽しい仲間と飲むビール。 人生 至るところ 青山あり。

 18日(月・休) 昨夜はビールと温泉と程よいお喋りの疲れで熟睡。 6時起床 空を見る。 快晴。 はじめて明るい朝を迎えた。 天気予報はフエーン現象で気温が33度ぐらいまで上がる、と恐ろしいことを言っている。 今日はきびしいぞ。 6時半 朝食。 歩き組は旧道伝いに湯沢まで。こちらは また国道に戻っての湯沢までの35キロ。 
行程は 浦佐〜六日町〜塩沢〜石打〜湯沢。 昨日はじめて会った仲なのに一晩過ごした今日はもう10年来の友と別れるように辛い。 メールアドレスを交換し、7時 お互いに記念写真を撮って右と左に別れての出発。 途中振り返って最後の手を振る。
さあ、 最後のランが始まる。道は緩やかに起伏して遠近感が心地いい。 街はずれでは、もうコンバインが コシヒカリ の刈入れに大忙しだった。

道中雑詠:  朝もやの 薄れる中に浮かびくる 墨絵のごとき 里山の杉  (浦佐付近)

六日町で高校生の朝錬のグループに会う。 スキー部とのこと。同じ方向を向いているので一緒に行くことにした。 今日は何故かこれまでで一番体調がいい。 高校生の後ろに何とかついて走れた。 途中、新潟からの話をしながらのラン。 皆びっくりしていた。 おかげで朝から相当入れ込んだ走りになったが久しぶりに思いっきり走れて爽快。
日差しは強いが流石に秋、風が強く帽子を後ろ前にかぶって走る。すごく一生懸命走っている感じがする。
左右に山が迫ってきてそろそろスキー場が見られるようになった。最初に現れたのは懐かしいヨーロッパ風のホテル、シャトー塩沢だった。子供が小さいころ毎年スキーに来ていた宿。
やがて石打、 左右はスキー場ばかり。 どれもこれも懐かしいところばかり。

道中雑詠:  あの壁も あのゲレンデも幻か 箱庭のごと スキー場の夏  (石打付近)

上野発の夜行電車に乗ると、あまり近すぎて3時ごろ石打に着いてしまい、駅のストーブにしがみついて夜の明けるのを待ったことなど思い出しながら、足を止めて青々とした夏のスキー場を眺めるのは一寸奇妙な感じであった。 さあ、ゴールの湯沢まであと7キロ。

この先の厳しい登りが 最後の試練とばかりに待ち構えている。   

道中雑詠:  吾が旅の 終わりに挑む峠道 遥かに霞む 終着の街  (石打峠)

午後1時丁度、 湯沢駅にゴール。ついに走り切った140キロ。 不安も一緒に背負ってのスタートだったが、終わってみれば何と充実した時間だっただろう。 日本縦断も感動した。
サロマも素晴らしかった。しかしこれらとは何かが大きく違う感動が体中に湧き上がってくるのを抑えられない。 独りでさえこんなに楽しい、3人だったらもっと楽しいはずだ。 

第2ステージに付き合ってくれる物好きが現れるのを期待しよう。
駅前温泉で1番湯に入り、ビールをどっさり買って車中で独り乾杯! 
奇しくも 敬老の日。